ワクワク葦名☆動物ランド
アニマル王国葦名
「狼よ、少しいいか?」
「は」
「御子の間の書庫で、何やらこんなものを見つけたのだ」
「これは…」
「何やら、動物の図鑑のようだ。なぜこんなところにあるのか、仔細は分からぬが…」
「だが、丁度よい。狼よ、お主、動物は好きか?」
「……いえ…」
「葦名の動物たちは、たくましく生きすぎて…少々、苦戦しまする」
「そこでだ!」
「はっ?」
「確かに、葦名に生きる者たちは皆強い。それは動物たちも同じだ」
「だからこそ、その生態を知っておくのも悪くはないだろうと思うてな」
「そうすれば、彼らとも幾らか戦いやすくもなるであろう!」
「御意…」
(御子様…)
(斯様な笑顔を見せるのは、いつぶりであろうか…)
「犬じゃ!」
「はっ」
「お主、犬は好きか?」
「いえ…」
「昔、義父に忍犬の遣い方を教わったのですが…」
「なかなか思うようにいかず」
「そうか…忍びにとって、犬は単なる愛玩動物ではないものな」
「だが、案ずるな!」
「は」
「狼は、そもそも犬科であろう?」
「は……は?」
「何よりお主自身、なんとなく犬っぽいしな!」
「………御意…」
「鶏でする」
「うむ。ただ正確には、軍鶏というらしいぞ!」
「葦名の軍鶏は、大きいな!」
「ええ…」
「今でも時折、殺されまする」
「そ、そうか…」
「こやつらの肉は、体格が大きな分絶品でございます」
「おお、食ったことがあるのか!」
「はい。殺した後、傀儡にして自ら火に飛び込ませるのです」
「え」
「そうすると、ほぼ生きたまま焼くので、新鮮で美味しく調理できるのです」
「………」(ドン引き)
「御子様にも、いずれ召し上がっていただきたく…」
「あ、ああ。いつかな…」
(…少し、休ませたほうがいいかもな…)
「トカゲ…」
「いや、ヤモリじゃな。これは」
「……」
「ヤモリは、家守。縁起の良い生き物であるぞ」
「この御子の間でも、一匹、いや二匹ほど、飼ってみたいものじゃ!」
「…しかし、葦名のヤモリは、たいそう危険な生物でございます」
「ほぉ、そうなのか?」
「はい。彼奴らの吐く体液は、強い有毒性を持っており…」
「まともに浴びれば、常人ならば即死でしょう」
「そ、そうなのか…」
「そのうえ…」
「その大きさが、異常なほどで…」
「…飼うのはやめておくか…」
「は」
「これは…牛か?」
「は。火牛、にございます」
「数日前、エマ殿と城の近辺を散策していたのだが…」
「何やら暴れる牛を、兵数人で取り押さえていたのだ」
「よもや、こんな形で戦に駆り出されていたとはな…」
「たかが牛といえど、眼は血走り、その暴れようは尋常ではなかった…」
「して…どうした?」
「…介錯、いたしました」
「…そうか」
「殺した者の業も引き受ける。それも忍びの仕事じゃ…」
「気に病むでないぞ」
「…は」
「鯉か。竜泉川にも、たくさんおったな」
「一人では川に決して近づくなと、蝶々にもきつく言われたな…」
「御子様…」
「…お蝶殿の仰る通り、こやつらは非常に危険です。何しろ、人を喰うので」
「なに、そうなのか!?」
「はい。非常に凶暴で」
「そうだったのか…」
「いやなに、昔、蝶々と門前の橋まで散策した時にな」
「きらきらと、光り輝く鱗を持った、美しい鯉がいたものでな…」
「あんななりでも、人を喰うのだな…」
「いえ…おそらくそれは、別種の鯉でしょう。宝鯉と言います」
「おお、これじゃ!」
「こやつらは人喰いの鯉とは対照的で、人を襲わないぶん、非常に憶病で」
「こちらの姿に気づくと、すぐに逃げ出し、どこかへ消えてしまうのです」
「捕まえるのも、骨が折れまする…」
「捕まえる?」
「この宝鯉の輝く鱗は、その筋の者には大変貴重なものらしく」
「ああ、そういえば。橋を渡っていると、いつもどこからか…」
「うろこーうろこーと、さかんに叫ぶ声が聞こえておったな」
「思えば、あれはなんだったのであろうか…」
「…世には、知るべきでないものもございまする」
「?」
(あれは、御子様は知らぬほうが良い存在であろう…)
「おお、これが噂に聞く、ぬしの白蛇か!」
「は。こやつは、葦名のほぼ全域を縄張りとしているのか、外敵には容赦なく…」
「その大きな体で突進をされては、ひとたまりもございませぬ」
「お主、出くわしたのか!?」
「はい。して…」
「何やらこやつは、超常なる力をその身に秘めているとか」
「もしかすれば、我らの目指す不死断ちにも、役に立つやも…」
「何か、ご存じでしょうか?」
「すまぬ…。城の外部の生き物に関しては、とんと疎くてな…」
「エマ殿が、危険だからと外には連れて行ってくれぬのだ」
「御子様…」
「よう…」
「!!!??」
「そう身構えるな…なにも戦に参ったわけではない」
「なんだと…」
「お前達、葦名の生き物に興味があるそうだな」
「弦一郎殿…それは、確かにそうですが…」
「葦名の次期頭首として、志を同じくするものを放っては置けん」
「今ばかりは、竜胤を巡る争いも停戦だ…」
「これも葦名のため…」
(何か勘違いをしているな…)
「まず、ぬしの白蛇だが…こやつらは、落ち谷の奥にある毒沼を超えた先に、ねぐらを持っている」
「伝説では、その心包は神たる御魂を宿し、形は熟れた柿に似ているとか」
「確かに、手にすれば人を超えた力を手にできるやもしれぬ…」
「だが白蛇は、葦名においては奉るべき土地神であるぞ」
「くれぐれも、殺して奪おうなどと考えるではないぞ…」
「いいか、絶対だぞ?絶対殺すなよ?」
「……」
(あっ…)
「馬!」
「御子よ…馬は、好きか」
「はい!」
「そうか」
「この馬は、鬼鹿毛という名があってな…」
「俺の部下である、鬼形部…鬼庭形部雅孝の、愛馬…だった」
「だった、というと…」
「…ああ、そういうことだ」
「雅孝…お前ほどの者が、一体誰に…」
「…やはり戦は、惨いものですね…」
「無益な殺しは、誰のためにもならぬというのに…」
「お主も、そう思うであろう?狼よ」
「…………御意」
「葦名の猿は、身体能力が高く、頭も良い」
「人の真似をし、時にはそれ以上に上手く道具を扱うこともある」
「それで使う物が刀や銃というのは、皮肉なものだがな」
「こやつらは、単体ではそう苦戦もしないのですが…」
「群れて来られると、死を覚悟しまする」
「ひぇっ…」
「お前ほどの忍びでも、奴らには苦戦するか」
「ああ…」
「そうか(笑)」
(弦一郎殿、何故嬉しそうなのだ…)
「中でも一際強いのが、この老いた白猿…」
「ふ、風格が凄いな…」
「老いてこそ、磨かれるものもあるものだ…」
「御祖父様を見れば、俺の言っていることも分かるだろう」
「確かに…」
「猿といえば、私は幻廊という不可思議な空間で…」
「服を着た、奇妙な猿たちに出会いました」
「おぉ、これはちょっと可愛いではないか!」
「とはいえ、こやつらは厳密には猿ではなく…」
「猿の姿を借りた、変若の御子たちの魂らしいのですが」
「……」
「猿たちも、このように服を着せ、芸を仕込めば盛り上がりそうだな!」
「傀儡の術を使えば、すぐにでも」
「そ、それはやめておけ…」
「獅子猿とは戦ったのか、御子の忍び」
「ああ…強かった」
「強いうえに…」
「屁や糞を撒き散らすゆえ、精神的にもきつかった…」
「狼…苦労していたのだな」
「倒したのか?いや…倒せたのか?」
「…倒したと思ったら、もぞもぞと立ち上がり…」
「蟲に、寄生されていた」
注)↑閲覧注意?(クリックで拡大)
「ウッ…これが、蟲か」
「それも斬ったと思ったら、今度はねぐらへ移動していた」
「つがいと思われる個体もいたが、それも含めて今度こそ斬った」
「お前…なかなか酷なことをするな」
「これも御子様のため…」
「フッw」
「ところでお前達、目の赤い鯉は見たことがあるか?」
「いえ、ございませぬ」
「水生村の池の底には、そんな鯉もいるそうだ」
「俺の目も赤いぞ!」
「そうですか」
(赤目は、成りたいものに成れなかった者の名残…)
「…この先、苦労しそうだな」
「は?」
注)↑閲覧注意?(クリックで拡大)
「コオロギか?これは」
「は」
「コオロギは好きじゃ!あの透き通るような音色…」
「狼が来るまでは、あの月見櫓で唯一の癒しであった…」
「しかし、御子様…」
「こやつらもまた、異常に大きく、凶暴でする」
「え…そういうのはちょっと…」
「なぜ葦名の生物はみな、どれも異常に大きいのだ…」
「良い水を飲んでいるのだから、当然だろう」
「葦名の水を飲まぬから、そんなに小さいのだ、お前は」
「……」
「柄から手を離せ…狼」
「こ、これは…なんじゃ?」
「ナメクジ…?」
「これは…」
「魚だ」
「魚………?」
「葦名の外れにある、水生村の特産品でな」
「何やら、特別な餌を魚に与えていると、こんな姿に育つとか」
「昔、村へと訪れた時、村人たちから酒と共に振る舞われた…」
「…食ったのか」
「…せっかくの厚意を、無下にするわけにもいかぬのでな」
「ど、どうでした…?」
「意外にも…うまかった」
「なんと!」
「透き通った白身、滑らかな舌触り、弾力のある食感…」
「それとともに飲む、あの酒の味…」
「ああ…思い出したら、喉が渇いてきた…」
「ごくり…ごくり…」
(うわぁ…)
「これは…なんでしょう?」
「犬だ」
「犬だと…」
「ああ、犬だ。源の宮の犬だ」
「!」
「弦一郎殿、源の宮へ行ったことがあるのですか!?」
「……」
「お前達、不死断ちを目指しているそうだな」
「えっ…はい」
「御子の忍びよ」
「なんだ…」
「源の宮へは、行ったのか」
「ああ…行った」
「どうだった」
「…幻想的な雰囲気とは裏腹に、どこか寂しく、虚ろな空気が漂っていた」
「…そうか」
「昔は、栄華を誇ったものだと言うがな…今はそんなものか」
「無常よな…」
「白いヤモリ!可愛らしい!」
「これも、源の宮に生息する生き物なのですか!?」
「ああ、そうだ…」
「源の宮の環境が、同じ生物でも姿や特徴を変えるらしい」
「どう戦えばいい」
「そうだな…こやつらの吐く体液は、原種の吐く毒よりも、より一層魂を蝕む」
「毒もそうだが、触れぬに越したことはないな」
「…そうか」
「先の犬もそうだが、源の宮に住む者たちは…」
「地上に住むそれらよりも、凶暴な攻撃をすることが多い」
「行動もそうだが、生態がより、排他的なのだ」
「部外者を寄せ付けぬ精神性が、そうさせたのだろうな…」
「よくぞ生きて戻ってきたな…狼」
「是非もなく…」
「これは…牛ですか?」
「ああ。桜牛だ」
「狼よ、こやつとは戦ったのか?」
「は。火牛よりも、獰猛で…」
「宮の住人たちの狂気に、あてられているようにも思えました」
「姿かたちも地上のものよりも奇妙で…そのうえしぶとく」
「倒すのには苦労しました…」
「どこにおいても、人と獣とは変わらぬものだな…」
「お前、何を遊んでいる」
「違っ…」
「なんだこの巨大な鯉は!?私も餌付けしてみたいぞ!」
「いや…そうろくなものでもないぞ、こいつは」
「えっ…そうなのですか?」
「……」
「……」
「こやつこそ、本当に手も足も出ませんでした」
「水中ということもありますが…斬っても斬っても効いている様子がなく」
「逆にこやつの突進で、こちらの身は一撃でもたず…」
「大きいというのは、それだけで脅威であるからな」
「しかし、いつの間にか姿を消していました」
「この巨体が、姿を消す!?」
「は。して…どういうわけか、獅子猿の水場に死体があったのですが」
注)↑閲覧注意?(クリックで拡大)
「……」(怖気)
「口内に歯が…びっしりと」
「現実でも、こういった歯列を持つ魚はいるそうだがな…」
注)↑閲覧注意?(クリックで拡大)
参考:世にも恐ろしい歯を持つ7つの生物(閲覧注意) : カラパイア
「とはいえこれは、少なくとも鯉ではないな」
「……」(怖気)
「ン、なんだこいつは」
「桜竜…」
「な…!?実在していたのか…」
「宝刀を振るい、風を操る、神たる竜…」
「強敵であった」
「こやつ…攻撃は通じるのか?」
「近づいても、風で押し返され…」
「天からの雷を刀に宿し、それを放つことで、体力を削ることが出来ました」
「…おい」
「な、なんだ…御子の忍び」
「先にお前と戦っておいて、良かったぞ…」
「そ、そうか…?」
「雷返しの、いい練習になったからな…」
「…御子の忍びぃ…!」
「どうだ、竜胤の御子よ」
「これが葦名の生き物たちだ」
「みな、たくましく生きているのですね!感動しました!」
「そこでだ!」
「はっ?」
「…俺は、結局何も出来なかった」
「だから、葦名の動物たちを集めて、動物園でも開こうと思っている!」
「は?」
「牛や馬たちとの触れ合い、鯉の餌付け体験、猿や忍犬を使った興行…」
「それで、他所からも人と銭を集め、葦名を復興させる!」
「これも葦名の」
「戯言を…」
「戯言だと…?」
「俺は、この葦名を守るためならば」
「どのような動物たちであれ、従えて見せる…!」
「……」
「悪いが俺は忙しい…次に会う時まで」
「…哀れな…」
「動物園が出来たら、共にゆくか!狼!」
「………御意…」
☆おしまい☆